今月の言葉 2017年10月

自著を読み返す 今の自分には書けない一行もあれば 今ならこう書くと思う箇所もある ただし訂正はしない 物を作り続ける限り 過去と現在と未来の自分は別人格だと思うからである

浅田次郎

 昨日の私と今日の私、そして明日の私。なにも変化していないように感じますが、実は昨日の私は今日の私ではなく、明日の私は今日の私とは同じではありません。もっと言えば、今の私は1秒前の私ではなく、1秒後の私は今の私ではないのです。それは、行いや思いが常に変化するからなのです。たとえば、1時間前にお腹が空いていた時の私は、あんなものが食べたいこんなものが食べたいと思いをめぐらしていました。今、空腹が満たされた私がいます。そして、数時間後には食物を求めることになるでしょう。つまり、浅田さんが言うように、過去・現在・未来の私は別人格なのです。
 法然上人(1133~1212)は、称え続けるお念仏を大切にされました。それは、昨日のお念仏で昨日の私は救われるけれども、今日の私は今日のお念仏で救われます。さらには、明日のお念仏は明日の私を救ってくださるのです。過去・現在・未来の私が別人格だからこそ、お念仏を申し続けることを法然上人はお勧めなのです。